病院への恐怖心、苦手意識どうすればいい? ~ある柴犬さんの奮闘記 口輪編~
こんにちは!
いぬの病院バウバウの林です。
今回も引き続き柴犬はるちゃんの病院慣れのお話をします。
前回はエリザベスカラー装着練習を行いましたね。無事装着できて良かったです!
前回とは?はるちゃんって?エリザベスカラー?お読みになっていない方はコチラからご覧ください。
今回は口輪の練習を紹介します。
以前説明した「口輪とは何か?」の復習からしていきましょう。
●口輪とは?
頭の後ろから口全体を覆うのもで格子状のコップのような形をしています。プラスチック性、金属性がよく取り扱われています。
主に診察時やトリミング中に人を噛まないようにする目的で使われます。
エリザベスカラーだけでは対処しきれない時に活躍するサポート役です。
・ドイツなどのペット先進国では犬が電車に乗るときや街中を散歩するときに装着することがあります。
周りの人に安心感を与えるためはもちろんですが、日本でいうお散歩バッグをもつことのようにマナーとして扱われている地域もあります。
日本では日常的に見ることはありませんが、子供や他犬への咬傷事故予防や、悪意のある人がわざと毒物を食べさせようと道端に落としてある物の誤飲対策として使われることもあるようです。
・散歩時の拾い食い防止具としても使われます。
これは筆者の予想でにすぎませんが、集団接種ではスピード重視なので、口輪装着に長けた人がはるちゃんの動きを予想し、噛まれないように装着していたと思います。
いかに怖がらせる時間を短くし、素早く接種を終わらせるかが重視されていたのではないでしょうか?
当院でのはるちゃんの口輪装着の目標は「耳掃除ができる状態にすること」と「シャンプーをすること」です。
シャンプーだけだとエリザベスカラー装着のみでも実施できそうと踏んでいましたが、第一弾で説明したように、噛みそうなワンちゃんの耳掃除は口輪がないと、適切な処置ができません。
はるちゃんは耳にも皮膚病がありました。
~口輪練習 スタート~
まずは”口に物が触れる練習”から始めます。
初めはフードポーチを使います。(下の写真)
フードポーチとは、トレーニングでおやつを使う際にポケットが汚れないようにするポケットのなかにいれるポケットです。
口輪練習をお家でやってみたい!という方はフードポーチの代わりにコップや筒状のもので代用できます。
口輪は隙間があり、おやつがすり抜けていくので、フードポーチを使うわけです。
ダイエット中やおやつに制限がある子は主食のフードで代用してくださいね。
はるちゃん、おやつの匂いがするので興味津々です!
扱いが難しい子の練習をする場合、人手がある時はおやつ係1人・リード係1人いると、距離感を誤らないので安心です。
リードを持つ人は人の手元ではなく、いぬが不意におやつ係に飛び掛からないよういぬの様子と表情をしっかり見るようにしてください。
初めは警戒する子がほとんどですので、フードポーチに顔を近づけたらポーチから一粒おやつを出して、「怖くないよ〜」と認識させましょう。
幸いはるちゃんは思い切りが良かったので中にあるおやつを食べるために勢いよく顔をズボッ!と入れてくれました。✧\(>∀<)ノ✧
この動作を繰り返すことで、口にものが当たることへの抵抗を減らすことができます。
写真のように目元まで隠れることを怖がる子に対しては、飲み口をカットした浅めの紙コップから始めましょう。
切り口には、目が傷つかないようにガムテープで保護してください。
次のステップとして口輪にもチャレンジしていきます。
フードポーチをメインに練習し、たまに口輪にすり替えます。10回中1.2回口輪にすり替え。その後はだんだん口輪にすり替える頻度を増やしていきます。
口輪の使用時、頻度が低いうちは頭を固定するひもは使いません。もし紐を通したときに一瞬でパニックになると、これまで積み上げてきた口輪への良い印象が一気に下がります。
着けたい気持ちはありますがぐっとこらえましょう。
フードポーチから口輪にすり替えた時、はるちゃんは一瞬「ん?なんだ?」と不思議そうな反応をしました。
おやつがあってもやや警戒態勢でしたが、不思議に思いながらもおやつ欲しさに口を入れてくれました。
もしご愛犬がチャレンジするときに怪しむようなら、匂いが強いおやつや・ペースト状のおやつを塗ってみたり、少し特別なご褒美を入れてみても良いかと思います。
口輪とフードポーチへの抵抗が無くなってきたら次は頭に紐を通していきます。
さて、ここで問題です。
今回使用した口輪の写真をもう一度見てください。
何か分かりましたか?
★1つ目は大きさが異なる
大きさが異なるのは理由が分かりますよね。口の大きさが異なれば、つける口輪の大きさも変わります。
★2つ目は下の口輪には白い紐がついています。
これはもともとついている紐ではなく、あとからタコ糸を追加でつけたもの(以下延長紐と記載)です。
筆者が延長紐をつける理由は、2つあります。
①口輪をつけて紐を耳後ろに通す際、距離を取りながら引っ張ることが出来ますし、もし噛もうとしてきた時に逃げやすい距離を保つことが出来ます。
②いぬが装着した時にパニックになった際「暴れてしまい、後頭部に通った紐に手が届かない!」という時に延長紐に指に引っ掛けるだけでパッと外せるので大活躍します。
警戒心が強い子は耳の後ろに紐が通る時に嫌がる子が多い傾向にあります。紐だけに頼らず、何もない時に耳まわりを触る練習を組みこんでおくとぐっと成功率が上がります。
はるちゃんは練習を楽しんでくれていたので、思ったより早い段階で紐を通せるようになりました!
紐を通すことに慣れたら留め具を締めていきます。こちらも一気に締めるのではなく徐々に進めていきましょう。
締め付ける強さを少しずつあげるほど、はるちゃんはちょっぴり嫌なのか手で器用に外そうとします…。
「なんて手先が器用なんだ!」と新たな発見もありました。
この状態でおやつをあげることは難しいですが、わんちゃんが落ち着いている時は隙間から小さくカットしたおやつを入れてあげましょう。
はるちゃんにはチュール状のおやつをシリンジに入れてチュパチュパ吸って食べてもらいました。
口輪練習がある日と、おやつを食べたり息抜きとして病院を楽しむだけの日を合わせて週1.2回の来院頻度 計10回 約2か月でここまでできるようになりました!
口輪が装着できたので、本来の目的である耳の掃除をし治療を行います。
獣医さんが処置しやすいように保定と口輪が抜けないようにしてくれている動物看護師(写真右)
シリンジでペースト状のおやつ与える筆者(写真左)
処置をする獣医師(写真中央ピンクの服)
3人がかりでしたが「耳掃除ができる状態にすること」という目標を達成することができました!
この処置後はるちゃんは、筆者が予想した通りご機嫌斜めで、顔が険しかったです😢
診察台から降ろすと、耳が気持ち悪かったようで、地面にこすりつけていました。
延長紐を引っ張り口輪を外し、ペースト状のおやつを差し出しましたが食べてくれず、「一刻も早く飼い主様の元に帰りたい!」といった様子でした。
はるちゃんにとってのご褒美は飼い主様だと判断し、待合の飼い主様の元へ向かいたくさん褒めてもらいました。
気に入らない場所をなでられると怒ることがあるはるちゃんですが、この時ばかりは全身をわしゃわしゃ撫でられても嬉しそうでした!
少し落ち着きを取り戻した後、やっと筆者からおやつを食べてくれ、体を撫でさせてくれました。
「先生!今日はこんなことされるだなんて聞いてなかったんですけど!!」と聞こえてきそうな顔で見つめられました(;’∀’)
お会計が終わった後は飼い主様を引っ張りながら病院を出て行ったので、筆者自身「関係性が一気に壊れてしまったのでは…」と不安を感じました。
しかし、嫌なことを払拭するためのフォローとして1週間後におやつを食べに来てもらい、楽しく院内散歩やおやつはどっちだゲームをするだけの時間を設けました。
少し心の距離が出来てしまったと不安でしたが、その翌週には午後診察の開始を待ち、自動ドアの前で嬉しそうに待っているはるちゃんの姿がありました!
とても嬉しかったです😊
もしはるちゃんではない別のワンちゃんだったら、連日おやつだけを食べに来たり、おもちゃ遊びだけをしに来てもらうことを提案していたかもしれません。
ワンちゃんにとって病院での行為は理解しがたい事です。
苦手な検査や処置ができたから『はい!終わり!』ではなく、継続して家での練習や来院して慣れてもらえるようにする工夫が大切です。
『苦手』を『好きになってもらう』のではなく、『苦手だけど、ちょっと我慢できる!ご褒美があれば頑張れる!』というよう心意気を持ち、ワンちゃんと練習に取り組んでみてください!
前ブログでも述べましたが、
いつ何時ご愛犬が怪我や病気、手術をするかは誰にも分かりません。
ぜひご自宅でエリザベスカラーと口輪の装着練習をしてみてくださいね。
いよいよ、次回はシャンプー編です!Σ(・ω・ノ)ノ!
果たしてはるちゃんはシャンプーが苦手なのでしょうか?
どんな反応をするのか楽しみな反面、初めての試みになるので筆者もドキドキ!!
お楽しみに!!
いぬとねこの病院バウバウ
医事主任 林